の あ とさ き  -8-

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2007,11/15,Thu

 ずっと一緒にいよ うと言った。 たとえ星を壊しても守ると約束した。

 それなのにどうし て、彼は今此 処にいないのだろう。どうして、自分は彼の傍にいないのだろう?

 誰よりも一番、大 好きなのに。

 

 ドアが開くと、廊 下の壁に凭れ ていたライラが顔を上げる。

「待たせたな。すま ん、ライラ」

「いいえ。…それ で、どうだったの?」

「当該任務は継続 中、だとよ。や り易くて助かるぜ。――ミス・ヴァンカート」

 副官の隣で長椅子 から腰を上げ た相手が振り向く。

「…こんなコトに なっちまって、 本当に申し訳ない。サラディンは、必ず無事に連れ帰るから」

 簡略だが誠意ある 謝罪をされた 彼女は、琥珀色の瞳を細めて薄く笑む。

「――いいえ。…私 自身は、大切 な同胞である彼が無事であるならば、この宇宙の何処に居ようと構いません。…ですから彼を探すのは、あくまでもあなたご自身の為になさって下さい。ルシ ファード・オスカーシュタイン大尉」

 髪はまだ染めたま までも、顎の 細い綺麗な顔立ちは、やはりサラディンとよく似ている。硬く冷ややかなのに、なまめかしく艶やかな声の雰囲気も。

 加えて言葉の内容 も大層凛々しく、一瞬見惚れかけた ルシファード は、首を振った。

「…そうだな。除隊 して探しに行くっつー手もあるが、使えるなら情報部のツテは使った方が圧倒的に有利だ。…ライラ。親父が、アリスの護衛はお前に任せると言ってた。 また俺の分の 負担を預けちまってすまねぇが、彼女はサラディンJr.のママだ。くれぐれも、よろしく頼む」

「…了解。ところ で、大丈夫な の?ルシファ」

「何が?」

 ルシファードに付 いて歩き始め たライラは訝しげに問うた。

「…特に落ち込んで いる様子はな いから、妙だなぁと思って。今までの流れを考えると、もっとベッコベコに凹んでいるはずじゃない?」

 見上げる横顔は、 いつもの彼らしく無表情だ。

「ヘコんでいますと も。そりゃあ もう、ベッコベコに。…ケド、あの人探すのにそれじゃ能率悪いでしょ。だから、俺の脳ミソが論理崩壊しないよう、プロテクト掛けちまったの」

 規定外の大尉は、 また常人には 理解不能な答えを返す。少し考えかけたライラは、間もなくその努力を放棄した。

「…まぁいいわ。兎 に角もさっさ とドクターを連れ戻して、明るく楽しい軍隊生活を取り戻しなさい。…健闘を祈る以外、私に出来る事があるなら言って」

「いや、大丈夫だ。 サン キュな、ライ ラ」

 いち早く纏めてい た手荷物を下 げたルシファードと、通信部のあるビルの玄関で別れる。いつも通り、ラフな敬礼をして。

 

 

 数十年振りか、あ るいは百数十 年振りとなる完全な娯楽としての旅行は、存外に楽しかった。

 旅慣れしていると いう同伴者の 手配は、下手なツア・コンより手際がよく、不安を感じる停滞が殆どない。

 各地の名所を見、 歴史を辿り、 特産品を愛で、名物を味わう。

 ゆったりとした眠 りの後には、 次の惑星へと向かうシャトルに乗っている。

 来る日も来る日も 同じ場所で、 ミーハーなナース達と、際限なく来訪する患者を治していた忙しい日々が嘘のようだった。

 惑星表 面のほとんどを水に覆われた星で、見渡す限り広がる浅瀬に咲いた、白い水中花の群れ。灼熱の惑星を飛ぶ“火の鳥”。天高く、刺のようにそそり立つ岩石状生 物 の、生きた“岩の森”。底が見えないほどの巨大な渓谷を、数十キロに渡り流れ落ちる大瀑布…。

 星によっては、衛 星 軌道上のス テーション・ホテルに泊まることもあった。ミハイルはいつも何処でも律儀に部屋を二つ取るので、同室でも構いませんよ、と言うと、彼はどうやらそれが癖で あるらしい困ったような表情で笑う。

「俺これでも、一生 懸命紳士ぶっ てるんですから、誘惑しないで下さい。サラディン」

「始終一緒にいるの に、紳士めか してどうするんですか、ミーシャ。心配せずとも、そう軽々に手が出せるほど、私は安くはありません」

 眼鏡の階を押し上 げながら、凄 味のある笑顔を見せる。ミハイルは額へ手を当て、眩暈を抑えるように首を振った。

「…っ…クラクラす る。さすがド クター、惚れ直します」

「ドクター、と呼ぶ のは止めて下 さい。彼を思い出して…不快です」

 

 ――ドクター!

 大らかな声音。底 抜けに無邪気 な笑顔。

 

「――分かりまし た。ツインの部 屋に変更します。それとも、ダブルベッドの部屋に変更しますか?」

 刺を含んだ声に、 我へ帰る。テ レパシストの彼は、瞬間サラディンの胸を過ぎった想いを感じ取ったのだろう。唇の片端を上げて少し顰めたような顔が、その心情を表していた。

 素直な気持ちが、 心地良い。

 微笑んだサラディ ンは、青年の 頬へ手を当て、首を伸ばして軽く、その額へ唇を付けた。

 

 

 ――逃げ足が速 い!

 頭の中で、あらん 限りの罵倒を 並べながら、端末の画面を睨む。

 追い求める相手の 同伴者であるA級 テレパシストは、自分達の痕跡を次々と消しながら、見事と言いたくなるほどの逃避行を続けていた。情報部の協力を得ているとは言え、コンピュータの搭乗記 録や空港警備カメラ映像まで改竄されては、常人に手の出しようがない。

 さすがにその星で 出会った人間 全ての記憶感覚を操作できるO2ほどの能力をミハイルは持ち合わせておらず、不幸中の幸いだった。ルシファードは彼 らの記憶の欠片を拾い集め、既にその星にはいない二人の航跡を追う。全ては後手後手に回っていた。

 ――ったく、これ じゃマジで親 父から逃げてたマリリアードみてぇじゃねーかよ!

 同じ星の上に辿り 着けさえすれ ば、すぐにでも傍へ飛んで行けるのに。敵もさる者、漸うルシファードが目的地を見つけ出し辿り着くと、二人は既にその惑星を離れた後なのだ。

 サラディン、サラ ディン、サラ ディン、サラディン…

 解けそうになる封 印を、溢れそ うになる気持ちの箍を、プロテクトを幾度も掛け直して、ひたすら一刻でも一分でも早く、次の目的地へ辿り着くことだけを考える。

 最初に取られたア ドヴァンテー ジはそれで少しずつ、消化されている筈だった。

*… 今はかなり勢いで書いているので細切れになって申し訳ありません…。

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