Afternoon Tea Time --at Rurikyuu.
ドラマCD初回特典プチ文庫の4巻を読んで、ふいに思いついた
お話。
マリリアードの、かなり濃厚な捻くれっぷりを感じて頂けるかと思います。
書きながら、自分で「マリリンて怖ぇ〜」と思ってしまいました。
ルシファードが恐れ、父親派になるのも、むべなるかな。でも、そんな彼も好きさv
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「親父の専属パティシエなんぞごめんだ――そう、そんな風に言ったんですか、ルシファードは」
息子からのきっぱりとした“親離れ宣言”を、寂しがるかと思った友人は、平気で愉快そうに笑っている。
「ルーシーもまだまだ…甘いですねぇ。それではオリビエに敵わないでしょう」
「…当然だ。私は“元祖黒髪の大狸”であるお前と、かれこれ半世紀以上、付き合っているのだからな。実の息子にさえ自分の腹黒さを際どい所で隠しおおせて
いるとは、
本当にお前はずるい奴だ」
友人は、ティーカップを置いて優雅に笑う。
休日の午後を満たす、柔らかで甘く豊かな香り。二人が挟むテーブルの上には、今まさに食べ終えられたばかりの、ケーキ皿が二つ。
O2は、出会った頃の彼が常に漂わせていた、独特な清涼感のある香りを思い出す。
周囲の者に心地よく思われたそれは、彼の故郷であるラフェール星を丸ごと滅ぼした死病、シタン病の発症を防ぐ薬の匂いであり、彼の身体を蝕む副作用を示
すものでもあった。
「――あれは、不味かった」
S級テレパシストである二人に、細かな会話は要らない。
「ええ…でも、懐かしいですね。もう、あれから半世紀以上も経ったなんて…不思議な感じがします。幸いロヴもまだ健在ですし、ユーフェミアも助かって…本
当に良かった。感謝します、オリビエ。それにしても、ルーシーの想い人は名医なのですね」
O2は、今日はスクリーングラスをしていない、素の目許を少し震わせた。
「ドクターの方はそうだと思うが――“あれ”は“そう”なのか?」
どうも違和感がある、と言わんばかりに銀灰色の眉を微かに寄せる。長い睫の下で瞬く黒い瞳に、友人の笑顔が映る。
「私にも分かりませんし、とやかく言うつもりもありませんが…。例えば私は、あなたが女性だったとしても天が落ちようと地が裂けようと、決してプロポーズしようとは思いません。でもルシファードは、もし彼が女性だっ
たら、とっくにそうしているのではないですか?」
注ぎ足したお茶を一口飲んだ彼は、わざとらしく溜息をつく。
「…孫の顔が見られないのは残念ですけれど…」
「――お前は本当に、嫌な奴だな」
『パパ』や『お父さん』も未だにものすごく嫌だが、『おじいちゃん』などと呼ばれようものなら、全身の鳥肌が引っ込まなくなりそうだ…と、O2が思って
いることを相手は百も承知だ。
「お褒めに預かり光栄です。…オリビエ、お茶のおかわりはいかがですか?」
「――貰う」
耐熱ガラスのポットで揺らめく赤褐色の液体が、美しい手によって白磁の茶器に注がれる。最高級の茶葉をブレンドした香味は、巷のどんなものとも違う。ま
さしく『この世のものとも思えない』深さと優雅さ。
それをゆっくりと味わったO2は、苦く笑った。
「…あいつは何も分かってない」
「そうでもないでしょう。少なくとも、巻き込まれたくないと思うくらいには…感じているのですから」
そう…ルシファード、あなたは心のどこかで気付いているのでしょう。
オリビエの、私に対する執着など軽く越えているかもしれない、私の――彼に対する妄執を。
私自身、文字通り一度死ぬまで気付かなかった、その深さと強さ。常軌を逸している、と自分でも時折空恐ろしくなる想いは、もう『愛』だの『友情』などと
いう生易しい言葉では、表せない。
ルシファード。きっと、あなたはどこかで勘付いている。
オリビエが他人の味を受け付けないのではない。私が――彼と過ごした3年間で、そう仕向けたのかもしれない、ということに。
彼は、そんな私の想いを受け止めてなお、笑っていられる。信じられないくらい懐の深い男なんですよ、あなたの父親は。
だから、まだ、あなたは彼に敵いません…ルシファード。
ま、対抗する気持ちもないでしょうけれど。
「今日はお天気が悪いですね」
「…ああ」
二人が座るサンルームの窓の向こうでは、山吹色の花がしとど降る雨に揺れていた。